専有部分の修繕ルールの策定

理事会で最も困難といわれる一つの業務があります。それは、専有部分のリフォーム申請が理事会に提出されたとき、承認をしていいのかそれとも問題点等を指摘すべきなのか、という業務です。

普通のマンションの理事会では、承認してよいリフォームと、指摘や確認が必要なリフォームとの判別を、即時に判断するのは本当に困難です。これは、マンション管理士が顧問に入っていても同じです。マンション管理士は共用部分には非常に詳しいですが、いざ専有部分内となるとそこまで研究しているマンション管理士は少ないのです。

ある理事会で、内容をよく見ずに大丈夫だろうとしてリフォーム申請を承認してしまい、あとでクレームの嵐となった事例をご紹介します。

スケルトンリフォームの申請

このマンションは、専有部分のフローリングの床下にシンダーコンクリートが敷いてありました。当時の施工では、スラブの打設の精度が低く、結果としてシンダーコンクリートで水平にする必要があったようです。そして、このシンダーコンクリートの中に排水管、給水管が埋め込まれていて、専有部分の配管を交換しようとすると、これらを壊して取り出す必要がありました。

理事会では、申請書にはただ配管をやりかえるということしか書いておらず、上下左右の住民に声掛けをするようにという指示もしませんでした。いざ、工事開始となって、さあ大変です。上下左右どころか、他の部屋の住民も、シンダーコンクリートを壊す振動、音にびっくりして、すぐに多くの苦情がその部屋に集中しました。しかし、業者さんは理事会が認めた工事だから、ということで簡易に説明を行い、工事を続けました。

当然の結果として、理事会は他の住民からのクレームの対応におわれたという話です。

やってはいけないリフォームを見逃さない

この他に、リフォーム申請を安易に認めてしまい、排水管洗浄ができなくなった、規約違反のディスポーザをつけて漏水させた、安い糊を使われてシックハウス症候群になってしまった、給水管がすぐに錆びた、マンション全体でガスの出が悪くなった、テレビが映らなくなった、無線LANが混線するようになったという事例もあります。

専有部分のリフォームは、マンションである以上、近隣への影響も視野に入れて注意して行う必要がありますが、ささいなことでも見逃すと大きな事件になりかねません。そして、リフォーム業者も、全ての業者がマンションのことを熟知しているわけではありません。

皆さんが、自分のマンションを心地良く住み続けていくには、自分たちのマンションでやっていいリフォームと、やってはいけないリフォームを勉強し、それを正しくリフォーム業者に伝える必要があります。

そのためには、理事会で、施工者から提出してもらう図面や仕様書、工程書をあらかじめ決めておくことと、それを見て、承認していい工事かどうかを判別する見識をもつことが必要です。一朝一夕にはいかないでしょうが、マンション管理士がルール策定のお手伝いすることもできますので、ぜひご活用ください。[注]

最近は、地震対策のため家具転倒防止で壁の中に固定器具を打ち込みたいとか、バリアフリーでトイレや廊下に手すりを取り付けたいなどの要望も増えています。こうした簡単にみえる工事でも、実は共用部分の壁に穴を開けて固定するような場合もありますので、専有部分のリフォームのルールをあらかじめ策定しておくことが望ましいのです。

平和に最大のメリットのあるリフォームをするために、ぜひ専有部分の修繕ルールを策定しましょう。

(マンション管理士/戸部素尚)

注: 修繕ルールの検討例(一部抜粋)は次のとおり。
【絶対的禁止事項】
1.専有部分の増築工事、専用使用部分の改築工事、共用部分の外観に影響を与える工事
2.主要構造部に影響を及ぼす穿孔や切欠等を伴う工事
3.共用部分の給排水設備に影響を与える工事
4.床や戸境壁の躯体の撤去を伴う工事
5.ディスポーザの設置
6.バルコニー・ルーフバルコニーへのサンルーム等の設置又は共用部分の増改築
【遵守すべき事項】
1.作業時間は、9時から17時(片付けを含む)までとすること
2.工事用車両を敷地内に駐車する場合には、工事開始の3日前より、区分所有者から直接申請をさせること
3.給水管・排水管・給湯管・ガス管を更新する場合、必ず施工する配管の材質・配管図を明確にした図面を管理組合・施主に提出すること
4.音・振動のでる作業がある場合、近隣住戸に対して、周知を徹底すること。これを証するために、誓約書を提出すること
【リフォームの分類と評価】
1.工事内容を、①壁紙クロス・下地材・CF・二重天井・建具据付、②フローリング工事、③給排水設備工事、④居室の増加・減少・移動、⑤開口部工事、⑥システムキッチン・ユニットバスの新設・交換工事、⑦共視聴設備・インターネット設備工事、⑧電気・ガス・空調・電話通信・換気・消防設備工事などに分類
2.想定される工事内容を、「届出不要工事」「届出を要する工事」「承認を要する工事」「施主に説明を要する工事」に分類し、その届出内容、承認内容、説明内容を明確に決定

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